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新国立競技場、現場監督の新入社員自殺。建設現場の実態を知ってほしい。

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南東側からの鳥瞰図

http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/

建設現場の働き方

こんにちは、たけのこです。

 

新国立競技場の建設現場で23歳の現場監督が過労自殺を図るという事件がありました。

 

2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場(東京都新宿区)の建設を巡り、下請け業者で現場監督を務めていた男性(23)=都内在住=が自殺したのは月200時間近い残業を強いられ精神疾患を発症したためだとして、両親が東京労働局上野労働基準監督署に労災申請した。両親の代理人の川人博弁護士が20日、明らかにした。

 

mainichi.jp

 

 

オリンピック事業でこのようなことが起こることは、とても悲しい。

でも、こうした労働実態は建設現場では、暗黙の了解というかそういった感覚で、多くの現場で同じような状態が慢性化しています。

 

悲しい事件を題材にするのは心が痛みますが、なぜこういったことになるのか。

建設現場について書きたいと思います。

 

あらゆるプレッシャーと闘う現場監督の働き方

まず、建設現場がどのように運営されているか簡単に解説したいと思います。

 

建設現場の組織体制は元請業者(ゼネコン)と下請(サブコン、専門工事業者)といった実際に工事を行うグループと、発注者・設計監理者(設計者が通常なる場合が多い)のグループで成り立っています。

 

設計監理者とは発注者に代わり、設計図に基づいて適切に建設工事がなされているか確認する業務です。

杭の長さや場所が適正かチェックしたり、施工不備(鉄筋の本数が少ないなど)を確認します。

また、設計段階ではわからなかった設計上の問題などをゼネコンと協議したりなんかもします。

 

ゼネコンと設計監理者はお互い協力、そして牽制し合うことで発注者の為により良い建物を作っているのです。

 

ゼネコンと下請け業者の関係

さて、ゼネコンと下請け業者の関係について。

たぶんこれは、多くの皆さんがイメージするところです。

 

建設現場ではまず工事全体を請け負う元請(ゼネコン)が頭に来て、その下請けとして特定工事を請け負うサブコンや専門工事業者が連なります。

 

建設現場の仮囲いなどに下のような施工体系図が貼られていることがあったりしますが、見たことありますでしょうか。

http://k-keisin.com/swfu/d/auto-yqseQJ.jpg

http://k-keisin.com/index.php?%E5%8F%B0%E5%B8%B3%E7%AD%89%E3%81%AE%E8%A8%98%E5%85%A5%E4%BE%8B

これをみると、どの業者の下請けにどの業者が入っているか一目瞭然です。

多くの場合、3次下請、4次下請くらいまで下請業者が現場に入っています。

(実際のところ5次、6次下請けと言うのもありえますが、これにはあまり触れないでおきます。)

 

なぜこのような下請け体制になっているかというと、ゼネコンから専門工事を請負った業者はその工事をするにあたり、工事の計画、材料の調達や必要な作業員の確保、実際の工事、品質管理、安全管理を行います。

複数下請けになるのは、請負った工事をするために必要な作業員の確保や、専門工事ができる作業員、機材が自社で賄えないためです。

 

また、建設業は専門工事の種類が全部で26種類もあり、それがこうした重複下請けの構造にしているともいえます。

 

今回の事件で自殺したというのは、おそらく一次下請業者で現場の工事計画や安全管理、品質管理を行っていた人物だと思います。

こうした実際に現場作業をするのではなく、それ以外の段取りや、現場管理をする人物を工事現場では「現場監督」(あるいは職長など)といいます。(現場監督が実際に作業する場合もあります)

 

そういったこともあり、ゼネコンの社員だけが現場監督ではなく、その下請けに入る業者にも多く現場監督が存在しているのです。

 

工事現場での一日

工事現場での作業は基本的には朝8時~夕方17時まで、お昼休憩を1時間入れた8時間作業です。

 

しかし、現場監督は違います。

 

現場監督は朝8時の朝礼の準備があるため、たいてい7時くらいには出勤し、17時以降には今後の工事の段取りや、品質管理記録の作成、図面の修正、下請け業者への支払いのための書類作成など他にも様々な業務が待っています。

 

そのため、現場作業は17時で終わっても、現場監督は直ぐに家に帰れないのです。

繁忙現場では徹夜なんてこともしばしば。

そして、工事現場は基本的に週休1日です。

 

さて、そうすると現場監督の残業時間は1か月あたり何時間になるでしょうか。

条件を次のように仮定します。

 

労働時間 07:00~22:00 残業6時間

労働日数 22日(土曜除く)

法定外労働時間(土曜日分)14時間×4日

1か月あたり残業時間=6h×22+14h×4=188時間

 

一例ではありますが、このような現場は多いです。

むしろこれくらい常識と思っている人が多いことでしょう。

現場作業員の労働時間は短くても、現場監督の労働時間は現場の繁忙度に応じてこの数字が増減します。

 

おそらく、今回自殺してしまった新入社員の労働状況はこのくらいだったのではないかなと思われます。

 

時間だけでなく作業環境が精神的負担となる

残業時間が多いことは確かに注目すべき問題ですが、それに追い打ちをかけるのが作業環境による精神的負担です。

 

建設業の作業環境はいわゆる3K(きつい、きたない、きけん)といわれます。これは近年だいぶ改善されてきていますが、それでも楽な仕事では決してありません。

工事現場は夏は暑く、冬は寒い、雨だろうが雪だろうが作業は行います。それに加え、常に作業現場は命を落とす危険のあるものに囲まれています。

 

現場監督はそのなかで、作業員の安全管理、工事の品質管理をしなくてはなりません。

また、更には工事の工期順守もあります。

 

建設現場には多くの専門工事業者が入り、一日に1000人単位で人が作業していることもあるため、自分たちの都合で作業できない場合が多々ありますし、天候の関係で作業ができないこともある中で、安全、品質、工程順守が求められているです。

 

そのため、現場監督には作業環境が3Kなだけでなく、人命や仕事へのプレッシャーが大きくのしかかっているのです。

 

どうすれば救えるか、どうすれば変えられるか

ただでさえ斜陽産業と言われる建設業は、従事する人員が年々減少しています。

それには今説明したような作業環境に一因があると思いますが、解決策はあるのでしょうか。

適正な価格と十分な工事期間を確保する

多くの工事現場の場合、工程表上は週6日作業になっています。そう土日休みが慣例として定着していないのです。

 

その理由は、

〇発注者からの工期の要望が厳しい。

〇元請は工事日数を縮めることで、経費の削減と工事受注機会の増を狙っている

〇下請け作業員は日給で働いているため、土日休みにすると給料が減る

〇作業員が日給のため、土日を休みにすると作業員が他の現場に移ってしまう。

 

といった状況があるのです。

 

ゼネコン側も発注者と交渉し工期を確保し、作業員の賃金を向上できればいいのですが、そうすると工事の金額は間違いなく高くなるでしょう。

発注者側がそれを受け入れるかと言えば、ほぼ間違いなくNOというのが基本です。

 

一円でも安く、なんでもネゴで値引きという商習慣が、結局のところ建設業の作業員を苦しめているんです。

適正な値段と十分な工期が理解されなければ、現状は変わりません。

 

今回の事件の原因も適正工期が確保されていないことにあると思います。

 

建設業者を短工期で追い詰めたのは発注者であるJSCと元請であるゼネコンです。

 

新国立競技場は度重なる設計の変更、ザハハディド氏の設計から再度設計施工の入札が行われ、それに加えて工期短縮要請。

JSCが工事を発注するまでに様々な問題を起こした結果、工事期間を短縮せざるをえなくなりました。

 

工事を請負ったゼネコン側も厳しい工期を承知の上で受注した責任もあります。

それにも関わらずニュース記事には次のようにコメントしています。

元請けの大成建設は「専門工事業者に対し、今後も法令順守の徹底を指導する」とのコメントを出した。

自分たちに責任は無いと言わんばかりの発言です。

命がけで作業する協力会社の社員に対する敬意が感じられません。

 

設計の精度を契約前にもっと上げる

設計事務所が設計図をつくり、ゼネコンがそれをもとに建物を建てる。

多くの人のイメージはそうだと思います。

 

しかし、実際のところは設計図だけでは工事はできません。

専門工事業者は設計図だけでは工事できないのです。

 

設計図は基本的に完成した状態を表現している図面です。

プラモデルで例えるとわかりやすいかもしれませんが、完成形の図面だけ見ても、パーツの組み立て方は説明書がないとわかりませんよね。

 

その説明書にあたる図面を「施工図」と呼んでいます。

この施工図をもとに作業工程や安全の確保、コスト等を検討しながら工事をしていくのですが、こうした検討をしていくと必ずでてくるのが「設計変更」です。

 

例えばこの柱を立てるためには、この配管の位置を設計図と変えなきゃいけないとか、お客さんの要望が変わって床の素材を変えると、壁の部分にも変更を加えないといけないとか、そんな感じで設計図の中で検討できていない問題が数多くでてくるのです。

 

設計変更が生じると、様々な段取り替えが発生します。

そうするとしわ寄せは現場の作業員にのしかかってくるのです。

 

最近ではBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)という三次元モデルを活用し、設計変更の問題となる原因を施工前に把握したり、より効率的に工事を進めるためのシステムが活用され始めています。

 

このBIMを活用がもっと進めば、設計変更や設計期間を短縮し、その分の時間を建設工期に当てられれば、建設作業員の負担を大きく減らすことにつながるのです。

 

新国立競技場、現場監督新入社員自殺。建設現場の実態を知ってほしい。

ばーっと想いのままに書いてしまったので、ちょっとわかりにくいかもしれません。

知っていてほしいのは、発注者の過剰な要求が建設工事業者を追い込んでしまっているということ。それが産業を衰退させている一つの原因なのです。

 

こうした事件で建設業を志す人が減ることを私は心配しています。

日本は自然災害の多い国です。

地震、台風、火山、大雨、洪水…

 

そういった自然災害の時に復旧に第一に駆け付けるのが建設業の使命の一つです。

 

また、建設業者が衰退していけば、都市の発展は遅くなり、災害の復興もままならず、古くなったインフラやビルは朽ちていきます。

今の建築は3~40年でリフォームや建て替えが必要なものがほとんどです。

そうすれば、日本は益々衰えていくでしょう。

 

私たちは良いものを安く手に入れようとします。

しかし、それが行き過ぎると、本来必要な収入を提供する側が確保できず、何かを犠牲にしなければビジネスが成り立たないようになってしまうのです。

それは物作りだけでなくサービス業でも同じです。

 

適正な物を適正な価格で買う。

それだけで、誰かが犠牲にならずに済むのです。

 

若い使命をもった将来ある人材が命を絶つというのは、本当にかなしい。

ご冥福をお祈りするとともに、人の犠牲の上に成り立つ経済が変わることを願います。